ぬっぺふほふ

妖怪独話 ぬっぺふほふ

ここは村はずれの古い寺、空が朱に染まる黄昏時。
ぶよぶよふよよと、柔い肉を弛ませる物の怪一匹が、
境内のけやきに身を隠し、山門のほうをじっと見つめていた。
 石畳の上にて、遊び疲れたわらしどもが、どこぞの家から
拝借した柿の実をむしゃむしゃとほおばっている。
 
 ああ、これはたまらない!

腹の虫がぐぅと鳴き、ぶるりん震える肥えた腹。
思えば、人を驚かそうと丑の刻から立ち尽くし、スズメが頭に戯れるほど、不動のままであった。
  さあ、今ここに妖の本分みせてやろう。
わっ、とわらしを仰天させて、手から落とした柿をも頂こう!

 勇んで踏み出す短き足。だが悲しいかな、しびれて大地を
踏みそこない、むなしく宙をけたぐった!
すってん転がる肉妖怪。なにか?と振り向くわらしたち。
哀れな物の怪一瞥し、残りの柿をぺろりと食す。

さらに日は暮れ、戌の刻。未だうつ伏せぬっぺふほふ。
わらしが去った境内に、虫の音だけがただ鳴り響くのであった。

妖怪解説

ぶよぶよした一頭身の肉の塊、それがぬっぺふほふ。
名前の響きからわかる通り、のっぺらぼうの亜流、または同一とも言われる。

このぬっぺふほふ、特異な容姿であるにもかかわらず、存在経緯がいまいちわからない。
そこで、自らの想像力を駆使し、その正体を推理してみた。

宴会芸で、「腹踊り」というものがある。
おなかを顔に見立て、滑稽に踊るアレである。

これが意外に歴史が古いようで、トルコの民族舞踊発祥であったりする。
またその流れか、中国のチワン族にも、腹踊りの文化がある。

その姿、一頭身の妖怪そのもの。
その様子の文献が日本にあったとしたら?
それを真似る者がいたとしたら?

そこで、ぬっぺふほふの正体を「ノーメイクのぽっちゃり男性腹踊り」と仮定した。

ぬっぺふほふの出現場所は古寺説があり、寺というものには文献を写し取った絵巻等が存在している可能性が高い。
それを参考に、腹踊りのまねごとをした太った男性。
さぞかしインパクトがあったであろう。

そのような文献は残っていないが、空襲で多くの書物が損失したとなればあったというロマンがあってもよい。

この仮定に、さらに当てはまる「はらだし」という、妖怪がいる。まさに腹に顔がある妖怪。
妖怪絵のみの古典資料から、現代の妖怪作家、佐藤有文氏が陽気な腹踊り設定を後付けたという。
ぬっぺふほふしかり、あながちその推測は間違っていないんじゃないかと思っていたり思っていなかったり。

今回は家康が遭遇したぬっぺふほふこと「肉人」の話をあえて避けた。
これは、天を指さす高速移動の小型タイプ。
宇宙人だよなと、思う次第。

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