付喪神(つくもがみ)

妖怪独話 付喪神(つくもがみ)

皆が寝静まる丑三つ時、茶箪笥で深くため息をつく古茶碗。
頭に盛られる飯よりも、重たい気持ちがズッシリと。

欠けた頭をかきつつ、さらに大きい息を吐き出し思い返す。
この家の娘、お菊は、婆から譲られた品々を好んで使う、
今時珍しい、たいそう物持ちの良い子であった。
「だが、そこが気がかりなんじゃ・・・。」
年頃の娘が、欠け茶碗で飯を食う。
百歩譲って、それは良しとしよう。
しかしこの間は、棚からひっくり返らんばかりに仰天した。

元ある柄がほぼ煤け、継接ぎだらけのぼろ着物。
婆も捨ておいたその品を、父母怒るもつゆ知らず、
しゃなり着こなし、城下へと遊び出る。
「そう、私はできる女」

現世に生まれて百年目、意思をもった私がいうのも可笑しいが
用なき時は捨ててもらったほうが、うれしいもの。
所詮わしは、成仏できない恨み節の物の怪じゃ。
「まあ、それ以上に。」
お菊が痛い女性として生きられては、身内として困る。
このまま棚から身投げして、捨てる意味をわからせてやろうと
思うが、それでは成仏できぬ。八方ふさがりな古茶碗であった。

妖怪解説

百年の時を経た道具が、精霊を宿し、妖怪変化したものが付喪神である。

大事に扱った道具が神格化するという訳ではなくただのいたずら妖怪に化けるだけで、迷惑この上ない存在のようだ。
しかも人を死に至らしめる場合もあるから質が悪い。
これを避けるために、立春前に道具を路地に捨てる「煤払い」という風習があったという。
なお、煤払いに腹を立てた付喪神が、人間たちに復讐する『付喪神絵巻』という物語がある。
高僧たちに負かされた付喪神たちはその後仏門に下り、最後は即身成仏するといった、ドラマ
チックな展開だ。

室町時代に書かれたとされるこの作品、日本人の読み物好きはいつの時代も変わらないようだ。

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