猫又(ねこまた)

妖怪独話

今晩も妖怪酒場では、喧騒の中、流しの三味線が
美しい音色を響かせていた。
猫又のタマは、三味線を軽やかに弾きながら、
涼し気な瞳をよっぱらいたちに送り歌い出す。

なーごと鳴き寄る雄猫の
尻尾を一切りごろにゃーと。
その後ベロリン皮をはぎ
できた三味線阿波踊り

「タマちゃん!いろっポイねぇ!」

ベロンベロンによった見越し入道が、おひねりをポイと投げ入れた。
ちりんと器に銭がおどり、その音を合図に弦はさらに響きだす。

のた坊主の親方が、酒を煽って腹鼓。
天井なめは、ベロリンと舌で指揮を取り、
朱に染まった一反木綿は、調子に合わせて宙で舞う。
陽気に踊る魑魅魍魎。
朝の光が差し込みはじめる卯の刻。酒場は煙と共に霧と化す。
ちょいと前までの騒ぎは嘘のよう。
一匹残った妖怪ぽつり。三味線抱えた三毛猫は、帰りの道をはや走り。
さてさて、もうけたこの銭で、今日はマタタビとしゃれ込みまするか。
草葉の露に毛を濡らし、思いをはせて帰路につくのであった。

妖怪解説

よく知られた猫の妖怪の代表格、猫又。
猫又は大きく2種類に分けられる。

・山中に住み、人を食らう大型の怪猫。
・年老いた家猫が化けたもの。

元々猫又は山中に住むものだけを指していたが、『徒然草』で、飼い猫も年を取ると、山の怪猫同様、猫又と化するとしている。
そして江戸時代に入り、後述の家猫が化ける説が一般的になったようだ。

『百怪図巻』猫また 画像:ウィキペデイア

さて、今回の三味線弾きの猫又、佐脇嵩之著『百怪図巻』に描かれている三味線を奏でる猫又をモデルにしている。
三味線の材料は猫の皮、三味線にされた猫たちへの鎮魂歌を歌っているという。

物悲し気な表情も相まって、佐脇嵩之の感受性の高さ感じる。

話は猫又から外れるが、先日ライブにて三味線奏者の方とご一緒する機会があった。
観客から三味線の材料について質問があり、やはり現在でも高級品は猫の皮だそうだ。
合皮のものは丈夫ではあるが音の響きが固く、練習用でしか価値がない。
結局本革を使うことになるのだが、日本国内では猫を捕獲し皮として使うことができないため、もっぱら中国からの輸入にたよっているそうだ。また猫以外に犬の皮でもよい三味線ができるらしい。

そんなこんなで、残念なことに猫又の受難は現代でも続くわけで、今もどこかで弔い唄を奏でているに違いない。

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